Q1.不登校やひきこもりについて、どう受け止めたらいいでしょうか?
A1. 不登校やひきこもりは、当事者が「何らかの意味があってとっている行動」です。多くは「何らかの大切なものを守っている行動」と言えるでしょう。無意識にその行動をとっている場合もあるので、本人が答えられないかもしれません。
つまり、表層的な「学校へ行っていない」「勉強しない」「他者と交流しようとしない」「就学就労しようとしない」といった行動ではなく、「当事者が何を守っているのか」に目を向けることが重要です。
そのとき、「くだらないプライドにこだわるな」とか「その程度のことなどみんな我慢している」といった「一般平均像との比較」は、もっとも気を付けるべき初期のミスのひとつです。感じやすさ・感じにくさは人それぞれであり、最初から見下してしまうのは間違いです。
「なぜ不登校をするのか」「なぜひきこもるのか」といったところを知りたがるよりも、「それなりのことがあった・あるのだろう」と推察することによって、少なくとも初期のボタンの掛け違いはある程度防げるものと思います。
とくに「甘え・甘やかし」という視点で判断することは、多くの場合において逆効果です。メガネやコンタクトレンズのない時代に、近視の人に向かって「こんなものも見えないのか!甘えるな!」と言うようなものです。当事者たちが抱える「何かしら困っていること」を理解することのほうがよほど重要です。
Q2. 不登校やひきこもりの支援において重要なことは?
A2.さきほどのA1とも関係しますが、第一には「問題視しないこと」だと思います。問題は「当事者」が持っているものではなく、その親が持っているものでもありません。「その子と学校との間」、「その人と周辺社会との間」など「間」にあります。
「問題視」とは「その人物こそが問題である」という見方です。つまり「その人物のせい」です。しかし、当事者やその家族は、「間」に大きな障壁があることで困っているわけなので、解決からは遠ざかってしまいます。「問題視がいけないのは、問題の所在を勘違いし、問題解決から遠ざかるから」です。
本当の問題は、学校に行かないことでも不就労でもなく、「当事者や家族のせいにすることで、【間の問題】が問題視されないこと、です。
第二には「信用」です。しばしば不登校やひきこもりは神経発達症(発達障害)と関連づけられて語られることがありますが、神経発達症を持っている人の場合、「そのことそのもの」よりも、その不便さ・苦手さを「からかわれる」「馬鹿にされる」「疎外される」「努力不足と思われる」といったことにより、「自己・他者への信用」が著しく低下してしまうことが問題であると思います。このような、いわば「信用が障害されている状態」こそ、様々な二次的問題の底にあるものだと考えます。
信用は、過去の経験や論理的推測から「安心していられること」「何かしらの良いことがありそうなこと」などを感じたときに生まれやすいものです。とくに「自己への信用」、具体的には「自分は攻撃されたり辱められたりしない」「自分は受け入れられる」「自分も何かしらできそうだ」といったことを経験的に感じられるようにすることが大切です。
だからこそ、「問題視しない」ということがその後を左右するわけです。
Q3. 不登校や引きこもりだと社会性が育たないのでは?
当会の会員は、社会性を大事に考えて入会されています。
「就学・就労させるべきか否か」という議論は、現時点で就学・就労しそうもない人にとっては意味がありません。「就学・就労しないと社会性が・・・」と言ったところでそうしなければ意味をなさないし、無理に就学・就労させてしまうと、余計に学校や社会を拒絶するようになるかもしれません。
「教育支援センターやフリースクールに行くべきでは」という考えも、学校に行こうとしない人、行くことを拒絶している人の前では意味を持ちません。
そもそも、在宅不登校になったり、引きこもり状態になった人には、対人関係において自信を失い、過剰な不安を覚えるようになった人が多いのです。問題の本質は、この「対人関係への過剰な不安」であって、「どこに通うか」ではありません。過剰な不安のままで何らかの通所施設に通うことは、かえってその不安を強めてしまうことになりかねません。
もし、その人が、対人関係への過剰な不安によって在宅不登校や引きこもりになったとしたら、「在宅からスタートできる」ということは、選択しやすいことです。イーズで最も求められている活動は「交流」です。人と出会いたい、最初は無理でもいつかはつながりたい、そういった思いを持っているが、なかなか踏み出せないでいた、そのような人のニーズに応えたいと思っています。
また、対人関係への過剰な不安がない人にとっては、「近くにフリースクールがない」「不登校に偏見のない人と交流したい」「ホームスクーリングを実践しながら子ども時代を有意義なものにしたい。そのためにも仲間と出会いたい」といったニーズで選ばれており、やはり社会性を大事に考えて入会する人が多いと思います。
Q4. 経済的に自立してもらわないと困ります。親は先に死ぬのですから。
A4 思えば思うほど叶えばいいのですが。年長の会員の多くには「就労不安」があると思います。一般の学生でもあると思いますが、とくに強い就労不安を感じます。子どもに「経済的に自立せよ」と言うよりも、就労不安を軽減することのほうが、経済的な自立には結びつきやすいと思います。
私たちは、進学就労に関してさまざまな進路支援をしていますが、一度アルバイトに慣れた人は、たいてい「一生無職」という見込みは持たなくなるようです。「いざとなったらアルバイトがある」と考えるようです。いっぽう、アルバイトで懲りた人は、就労そのものに大いなる不安を持つようです。ですから、対人関係だけでなく、就労経験においても、良好な原体験が大切です。
親が良好な就労体験をさせたくとも、それに着手するには、やはり対人関係への過剰な不安が軽減されていないと、躊躇してしまうので、就労体験にまではなかなか到達しません。
また、「働くことで得るもの以上に失うものの方が大きな状態」というものもあり、経済的自立を意識しすぎて、かえって困難な状態に陥ってしまう家庭もあります。福祉的な支援を受けられる場合もありますので、行き過ぎたプレッシャーを感じたり、与えたりしない方が良いと思います。
お金の心配はわかりますが、別のことを心配したほうが、結局はお得だと思います。
Q5. 子どもが不登校でひきこもりがちですが、働けるようになりますか?
A5 これは大雑把な割合でしかお答えできません。これまで約2千人のひきこもり型不登校の動向を見てきた立場でお伝えすると、25歳時点の就学就労状況を把握できたのは数百件です。もっとも多かったのは「アルバイト」です。「正社員になったが、退職してアルバイトになった人」も含まれます。
「非就学・非就労」、いわゆる「ニート」状態の人1は1割程度です。私たちのような機関のサポートを受けていないケースでは、よりニートの人の割合が多いと考えます。ニートの人は、年齢がさらに上昇すると、アルバイトをする人が増え、無収入の人は減少する傾向です。
したがって、「将来働けないのでは?」という心配に対しては「アルバイトを含めるならば就労する可能性は高い」とお答えします。もちろん、不就労の人もいますが、アルバイトの人の方がずっと多いです。
アルバイトが多い理由はいくつかありますが、「フルタイムを回避する」という理由がもっとも強いのではないかと思っています。「自由時間が欲しい」とか「趣味のために時間を割きたい」と言う人は多いのですが、「フルタイムだと消耗が著しい」というのが本音ではないかと思います。一般平均より就労でストレスが大きく蓄積してしまう人が多いと思います。
また「アルバイトにハマってしまう」というケースが案外多いです。就労不安を抱え就労を恐れていた人が、アルバイトをしてみて自信をつけ、職場が居場所になり、人間関係ができ、実家暮らしのため使える小遣いが一気に増える、といった理由から正社員よりもアルバイトを選びやすいのです。
就労できるかどうか気を揉む保護者に対しては、「働けないのではないかという不安より、アルバイトにハマってしまうほうを心配したほうがよいかもしれない」とお伝えしています。割合から言いますと、その可能性のほうが高いからです。
さいごに、「学校が合っていなかったからといって、仕事に合っていないとはかぎらない」ということを言いたいと思います。真面目な人が多いため(真面目すぎることも多いのですが)、学校より仕事のほうが合っていたという人は多かったです。「学校がダメなら仕事もダメ」のような考えは先入観です。
Q6. 子どもがひきこもりがちですが、正社員になれますか?
A6. 25歳時点で正社員であった人は、大学や専門学校を卒業と同時に正社員として就職し、3年以上務めた人が圧倒的に多かったです。正社員については「就職すること」より「長く継続できること」のほうが難しいです。
一般平均でも約3割が3年以内に退職すると言われて久しい中、ひきこもり型不登校経験者は、それ以上に就職しても辞める人が多いため、「辞めてもアルバイトや無職にならず転職して再び正社員になろうとする」という人が正社員を長く続けやすいでしょう。
そのため、イーズで正規就労を希望して進路サポートを利用する人の場合、就職に役立ち、転職しやすい資格がとれる専門学校に進学する人が多いです。
どうしても「進学就職させるためのサポート」が重視されやすいのですが、「心理的安全を保持しながら継続し続けられること」を重視することをお勧めしています。イーズでは就職後のサポートや転職のサポートにも力を入れています。