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ブログ『誤解だらけの不登校対応』

アルバイトは正社員の事前練習になるか


 
 これまで不登校経験者のアルバイトをたくさんサポートしてきました。保護者の多くは「うちの子は将来働けるようになるのだろうか」と心配していますから、アルバイトが定着すると、大変喜ばれます。


 アルバイトに慣れた若者たちにヒヤリングしてわかったことは、「無職にはならないだろう」と考えるようになりやすい、ということです。「お金が必要なときはアルバイトすればいい」と考えるようになった若者たちが、かなり多かったのです。アルバイトの成功体験は「生涯無職を回避する」という効果は高そうです。


 では、アルバイトの成功体験は、正社員へのステップアップにも効果的でしょうか。これまで私たちは「大学・専門学校・各種学校進学」や「就活」や「正社員」のサポートも数多くしてきましたが、そこでわかったことは、「アルバイトの成功体験は、就活を見送ったり、正社員を避けたり、正社員を辞める理由になりやすい」ということです。


 たとえば、ひきこもり型不登校を経験した中学を卒業した若者が、通信制高校在学中に週3日、1回5時間、時給1,150「円のアルバイトに慣れ、成功体験を得たとします。すると、以下のことが起きます。


①お金を稼ぐことができ、劣等コンプレックスが軽くなる
 全日制高校の多くは特別な事情がない限りアルバイトを禁止していますが、通信制高校のほとんどが禁止をしていません。そもそも通信制高校は勤労者のためでもあったので。上記の例だと月7万円前後稼ぐことができます。仮に手取で6万円得たとしましょう。もし、これが全額小遣いになったとしたら、同世代に比べてかなり高収入です。趣味や服装や髪形にお金をかけることができます。小遣い6万円は、親世代の小遣いの平均を超え、部長クラスに匹敵しています。


②社会的活動に対して自信が持てる
 「学校でさえ無理だったのに、ふつうに働けている」という自覚は、学校に通っていた人よりも重く価値あるものとして受け取られやすいものです。必要とされる喜び、成長した実感など、アルバイトの成功は自信につながります。無関係なようでいて、アルバイトの成功が、それまで諦めていた大学等への進学希望につながることもありました。


③「居場所」になる。
 アルバイトは、正社員の大人と違って、不就学不就労の人にとっては重要な「肩書」であり「所属先」です。そして、職場で人間関係ができたとき、そこは居場所にもなります。そこで出会った人と親しくなって、遊びに出かけたりすれば、そこは学校よりもずっと大事な居場所です。


④「正社員になりたくない理由」になりやすい
 ひきこもり型不登校経験者がフルタイムのアルバイトをする人は、多くありません。フルタイムでアルバイトするくらいなら、他の雇用形態を選ぶことの方が多いでしょう。アルバイトには「パートタイムでよい」という大きなメリットがあります。拘束されない自由時間が多いというメリットは、人見知り傾向の強い人や、趣味娯楽に時間とお金を使いたい人には大きな魅力です。
 また、正社員になった場合、転勤して実家を離れなくてはならないということが起きやすいわけです。長年のひきこもり生活を送ってきた人にとって、一人暮らしとフルタイム就職を同時にするのは大きなストレスです。


⑤情が移ってアルバイトを辞められない
 「自分なんて社会に通用するはずがない」などと考えていたような人が、もしお客さんに「あなたがいるから来たのよ」などと言われてしまったら、どうでしょう。実際、そのようなことがあると、小さな声掛けが、非常に大きく心を動かします。もし店長から「君が辞めたらこの店がは回らない」などと言われたらどうでしょう。そんなに頼りにされているのか、と思うのではないでしょうか。
 人見知りも極端だけれど、人情の感じ方も極端な場合、アルバイトを辞めなくなるということは十分に起きることです。そうなった場合、生涯収入が平均に比べて1億5千万円下がる、ということも起きるかもしれないのです。


⑥正社員になったあと「あの日々に戻りたい」と考えやすい
 正社員は多くがフルタイムです。一般の人よりもストレスを貯めやすい人ならば、一日・一週間・一か月・一年がすごく長く感じます。そんな中で、何かしんどいことが起きたとき、「辞めたいなあ」という考えが浮かぶのは、一般平均よりずっと多いのではないでしょうか。
 誰しも長く続けていれば「辞めたいなあ」「アルバイトしていたころは良かった」と思うことはあっておかしくないわけですが、実際に辞めるときに「辞めたら無職か」という考えに比べて「しばらくフリーターをしながら考える」という結論は、自分自身や親に対する説明として、しっくりきます。実際、アルバイト経験者が正社員を辞めたあとフリーターに戻るケースは珍しくありません。



 「アルバイトの失敗」は、その後の就労イメージ全体に暗い影を落としますが、アルバイトの成功が、かならずしも正社員の成功にはつながるわけではない、と私たちは考えます。
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