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ブログ『誤解だらけの不登校対応』

「自己肯定感」の誤解


 精神的に落ち込んだり、自信喪失している子どもに対し「自己肯定感を高めたい」と考える大人が多くなりました。おそらく「自己否定感を解消するには自己肯定感を高めればいいのだ」という考えが根底にあるのでしょう。「セルフエスティームを高める」ということと、目の前の子どもの自己否定感とは、分けて考えたほうが良いのではないでしょうか。

 なぜなら、自己否定対策として自己肯定を持ち出すその考えは「自己否定を抱えた子どもへの否定」です。「自己否定を抱えた現状のあなたをやめて、自己肯定を持った人間になって欲しい」という大人の願望を優先した考えです。

 自己否定感と自己肯定感は、一線上でつながった対極ではありません。自己否定感の反対は自己肯定感ではなく、「自己否定感がない」です。「喉が渇いている」の反対は「喉が渇いていない」です。

 本来、自己否定感とは生きる上で大事なものです。苦手なことをしない気分によって失敗を防いでいるのです。たとえば、泳ぎが苦手な人がいきなり川に飛び込まないようにしてくれています。

 自己否定感の正体は自己防衛です。「うまくいかないという予想」に基づいています。「危険。やらないほうがマシ」なので「自分なんてダメだ」と行動を抑制する気分になるわけです。誰しも苦手なことを避けるときは、「事態を悪化させないため」です。利益のためではなく、不利益を生じないための自己抑制です。この誰しも持っている不利益の回避行動が、著しく広汎に出て気分を落ち込ませているのが「自己否定感」です。

 その子にとっては、自己抑制に「不利益を生じないメリット」があるわけです。親からは「それでは利益が生まれない。自己抑制が極端であるほうが不利益を生じる」と見えるでしょう。しかし、その子は親の考えより、自身の自己抑制のほうが安全だと感じているはずです。「どうせ自分なんて」「きっとうまくいかないよ」「親はわかっていないんだ」と。

 そんな子どもに自己肯定感を高めようと働きかけると、一層気分を落ち込ませるかもしれません。「ああ、親はこんな自分を見ているのが嫌なんだろうな」と。
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