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ブログ『誤解だらけの不登校対応』

高卒後に直面すること

たとえば、人見知りが強い中学3年生のXさんがいたとします。Xさんは、長いこと学校に通っておらず、勉強もせず、外出もあまりしない(というか避けている)生活をしてきました。そのXさんの担任が、親に対して進路調査票をどうするか相談してきたのです。親は言いました。「ねえ、あなた高校はどうするの?どこかに進学しないでずっとひきこもりでいいの?アルバイトなんてできるの?」と。Xさんは思いました。「高校は行きたくないけど、さすがに中卒で生きる自信がない。ましてや働くなんて自信ない」と。「なんとなくだけど、高校はずっと家にいて、高校を卒業したらどこか興味を持てる世界で働けるように大学とか進学できたほうがいいよね」と。

そこで親が担任に相談し、通信制高校の学校説明会にまずは親だけ出かけることにしました。本人の希望は
①できるだけ通学が少なくて
②できるだけ課題が簡単で
③もしかしたら話の合う友達が見つかりそうなところで
④先生が厳しくなくて優しいところで
⑤受験がいらないか、簡単な面接程度で済むところ
といった感じです。当然、「在宅コース」とか「ネットコース」を選ぶことに決めています。

そして、ワクワク感のあるパンフレットを見て、ドキドキしながらオープンスクールにも参加して、進学先を決めました。しかし、入ってみれば、今までの生活と比べて
①レポートが年間50本前後ある。前期は最初だけ手を付けて、あとはほとんど手付かず。
②「メディア視聴」なるものがある。前期は最初だけ手を付けて、あとはほとんど手付かず。
③「スクーリング」というリアルな授業に参加するのが嫌で嫌でたまらない。
④「テスト」も嫌で嫌でたまらない。
という点があらわれてきました。

つまり、Xさんの場合、通信制高校の在宅コーズ進学は、「中卒を回避できる」「将来大学等に進学できる可能性の残しておきたい」といったメリットがあるいっぽう、「レポート、メディア視聴、スクーリング、テスト」を引き受けるという、本人からしたら「デメリット」がくっついてきたわけです。

だいたい、在宅型不登校の人は、秋くらいに進学先が決まると、翌年の3月上旬くらいまでは少し精神的に落ち着いていることが多いんですね。「高校に入ってしまえば中学の不登校はチャラ」ですから。ところが、高校入学が近づいてくると不安が高まってくることが多いのです。通信制とはいえ、久しぶりに学校と向き合う必要が出てくるからです。


もし、Xさんのような人がいたとしますと、Xさんの親はどう対応するでしょうか。だいたい私の経験では、親御さんはわが子に進学してもらいたい人が多いんです。「本人が望んでいるので」と言っていたとしても。

さて、このXさんの担任の生徒指導の記録はどうなっているでしょうか。たぶん「親との面談や進路希望調査票や本人の希望を尊重し、いくつか通信制高校の情報提供をした結果、無事〇〇高校に合格した」と成果の部分が記されていると想像するんですね。ただ、通信制高校というのは、学校設置基準がすごく低くて、定員を何千人も受け入れることができるんですね。つまり、よほどのことがない限り、合格するんです。実質的な「不登校経験者の受け皿」であることは百も承知ですから、欠席日数なんて気にせずに合格させてくれます。学校の記録には「ちゃんと進路指導をした」という形でしか残らないんです。


本来、高校は「高度な勉強をするところ」です。しかし、大多数が進学するようになってから、誰でも入学できる高校は高等でも何でもなくなって、義務教育学校化しています。多くの通信制高校生は、「高卒資格をとるため」に形式化形骸化した課題提出をしており、年度末は一気に課題をやっつける生徒たちが大勢います。それでも、「さすがに中卒はねえ」という考えで「とりえず高卒資格」という点で親子は一致しやすいんです。その結果、「高卒取得後に呆然と立ち尽くしてしまう人たち」が一定数生まれます。


通信制高校や単位制定時制高校は、「不登校経験者の受け皿」として実質的に機能している部分がありますが、大学・短大・専門学校のほとどんどはそうではありません。ほとんどの大学の通信制も、通信制高校とは違います。大学の通信制は「働きながら学ぶところ」として今も機能し続けているからです。通信制高校の在宅コースとの大きな違いは「フルタイム通学であるところ」です。


今や少子化で半数の大学は定員割れですから、難易度にこだわらなければ、入試はさほど難しくありません。総合型と呼ばれる、実質的な専願で出願すれば、昭和に比べて格段に合格しやすくなっています。そう。通信制高校入学⇒卒業⇒大学等合格までは、そんなに難しくないのです。問題は「不登校の受け皿ではないところにフルタイムで通わざるを得なくなること」です。在宅中心で過ごしてきた人たちは、これに直面することが多いのです。

・朝定時に起きて
・身支度を整え
・朝食をとり
・外出し
・公共交通機関を使って移動し
・リアルに他人の中で過ごし
・外で食事をとり
・夜には入浴し
・遅くとも深夜には就寝する

という生活を最低限していかねばならないわけです。

実際、大学等に入学と同時に一念発起して日々の通学に順応していく人もいます。ただ、長年の習慣から抜けきることができずに、進学そのものを諦めたり、中途退学する人も少なくありません。

ですから、フリースクールや教育支援センターに毎日のように通っているような通所型不登校と、ひきこもり生活が主体である在宅型不登校は分けて考えるべきですし、後者の場合、通信制高校選びとか、通信制高校入試とか、通信制高校卒業とか、大学等入学はそんなに重要なことではなくて、「フルタイム拘束にどう慣れていくか」のほうが現実には大きなことになっています。

私の経験で言いますと、「自分は勉強嫌いだから、高校には行かないでバイトします」と決めた人の方が、精神的にはタフでした。こういった人たちは、実際にフルタイムに近いアルバイトをし始めました。やがて年齢が高くなってくると、待遇を理由に正社員に切り替えていく傾向がありました。

こうした経験があるので、私は勉強よりも、人間関係よりも、20歳前くらいに
・朝定時に起きて
・身支度を整え
・朝食をとり
・外出し
・公共交通機関を使って移動し
・リアルに他人の中で過ごし
・外で食事をとり
・夜には入浴し
・遅くとも深夜には就寝する

のようなことに慣れておく練習をお手伝いすることが多いのです。「高卒と同時に呆然と立ち尽くさないように」です。ただし、これを手伝えるだけの信用を得ないと、こんな魅力のない取り組みには踏み出せないのです。


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